人間は誰でも、辛いことや悲しいことに出会えば落ち込んだり、憂うつな気持ちになったりします。しかし通常は、ささいな喜びで気が紛れ、時と共に元気を取り戻していきます。これに対しうつ病は、このようなうつ状態が2週間以上の長期にわたり毎日続き、日常生活に支障をきたす場合を言います。また、眠れない、疲れやすい、食欲がないといった症状が身体にあらわれることもあります。
以前は心の病と考えられていたうつ病も、現在では「脳内の神経伝達物質の不足による脳の病気である」という考えが主流です。つまりうつ病は、他の身体の病気と同じように、身体(脳)の機能障害によって発症しているのです。
「自分はうつ病になるような弱い精神ではない」
「ストレス社会でも努力し続けられる忍耐力がある」
このように思っていた方がうつ病の診断を受けることもあります。
「うつ病は精神が弱い人がなる」と思われているかもしれませんが、それは誤解です。うつ病は脳の病気ですので、精神の強い人が気合で治せるものではありません。むしろ、強い精神を持っている方ほど周りの人にも「この人は大丈夫」と思われてしまい、他人に頼る機会に恵まれなく、悩みを抱え込んでしまうのかもしれません。抱え込んだ悩みが溜まり、うつ病に発展してしまわないように甘えられる人をつくっておくことが必要なのです。
(資料:厚生労働省「患者調査」)
厚生労働省の「うつ病・躁うつ病の総患者数」調査では、うつ病患者数は平成20年には104万人にのぼり、平成12年を境に2.4倍も増加しています。生涯にうつ病にかかる人は8人に1人とも言われ、医療機関を受診していない潜在患者を含めれば、もっと多くの人がうつ病に苦しんでいると言われています。
うつ病の最悪の結末は自殺です。
命にかかわる病気ですが、自分が病気だと気付かなかったり、病院に行くのをためらったりして、受診しないまま悩んでいる方も多くいらっしゃいます。うつ病は、早期に適切な治療を行うことにより、必ず治る病気です。気になる症状がある方はぜひ診察にいらしていただきたいと思います。
うつ病は、患者様ご本人ではなかなか気付けないものです。ご家族は、本人から「調子がおかしい」と言ってくれないと分からないと思われるかもしれませんが、うつ病は自覚することが難しい病気です。
うつ病の危険なサインは、身体に出ていることが多いので、身近にいる人が「身体の変化」に気付いてあげてください。ご主人やお母さん、お子さんなど大切な人の異変に気付かないまま、「ある日突然自殺してしまった…」という取り返しのつかないことにならないために、ご家族の元気がなければ睡眠の状態や食欲が普段と異なっていないか気にしてあげてください。
また、ご家族の方でも生活のリズムが違うなどの理由で顔を合わせていないと、異変を見逃してしまうかもしれません。そうならない為に、普段からコミュニケーションをとることが大切になります。例えば、食卓を一緒に囲むことや、毎朝「おはよう」「いってらっしゃい」の挨拶を欠かさないことなど、電話やメールだけではなく対面のコミュニケーションを心掛けてみましょう。
当院では、ご家族からのご相談も受け付けております。まずはお気軽にご相談ください。仕事熱心、凝り性、徹底的、正直、几帳面、正義感が強い、責任感が強い、秩序を重んじる、他人に気を遣う、仕事熱心、過度に良心的・小心、消極的・保守的、頑固、わがまま(近親者に対してのみ)
うつ病はそれぞれの患者様によって、症状や発病状況、治るまでの期間、重症度が異なる疾患です。しかし、経過には大体共通する部分もありますので、各々の時期の治療目標も合わせて説明します。
昔は喪失体験に引き続き発病することが多かったのですが、現代ではさまざまなストレス、つまり過重労働、人間関係(上司、同僚、ママ友同士など)のストレス、環境の変化(転居、異動、進学など)に引き続き症状が出現します。
ご自分がストレスを抱えていることを自覚できることは重要ですし、発散や、家族や友人にそのことを話すこともとても大切です。発病予防になります。
だるさと腹痛以外は、自覚症状のない場合もあります。その場合は内科を受診されるでしょう。最近は他科の先生方もうつ病を念頭においてくれるようになりましたが、検査の結果「異状なし」と言われることもあります。これはあくまで「身体に」異常がないということですので、うつ病の可能性はあります。
初期の目標は症状を取り去ることです。全く症状がなくなることを完全寛解(かんかい)と言います。
たとえ軽度でも睡眠障害、倦怠感、興味の喪失、罪責感、集中力の低下などの症状が残遺していると、後に悪化のサインとなります。
寛解が6か月間続くと回復と呼びます。
最近の脳画像の研究から、寛解期には認められなかった通常の脳血流が、回復期になって初めて認められることが示されています。
回復後は再発の防止が重要な課題となります。その期間はパニック症や社交恐怖症、パーソナリティ障害の併存する方や、過去に再発したことのある方では長くなります。
どんな小さなことでも構いません。お気軽にご相談にいらしてください。
抗うつ薬は、減少している脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン)の量を正常に近い状態に戻す働きがあります。近年は治療薬の研究が進み、効果の高い薬が開発されています。
当院では患者様の症状に合わせ、適切な薬を適切な量処方いたします。薬は服用してすぐ効果が出るものではなく、2週間~4週間程度で改善効果があらわれてきますので、継続的に服用することが大切です。途中で患者様の判断で服用をやめることは、病気が長期化したり再発したりする原因になりますので、根気よく服用を続けてください。
投薬と十分な休養でうつ病はかなり回復しますが、悩みをかかえていると長引くことがあります。そのような場合は、カウンセリングもあります。
また、希望される方は、認知行動療法を行います。復職に不安がある場合は、リワークプログラムへの参加が効果的です。復学を希望されている方には、デイ・ナイトケアもあります。再発が多いのもうつ病の特徴の一つです。回復した後も最低1年間は服薬しましょう。
うつ病患者様のご家族ご友人の方は、病気の苦しみを共有し支える大切な存在です。回復の手助けになるよう、気を付けていただきたい点をお伝えします。
「頑張れ」「やればできるよ」などの言葉は、そうできない自分へのいら立ちを強めてしまいます。「ゆっくり休んでいいよ」と伝えてあげてください。
「散歩でもしたら」「映画でも見に行こう」などの誘いは、善意でいっていても、何もする気力が起きない人はかえって負担に感じてしまいます。回復して本人の意欲が戻るまでは静かに見守ってあげてください。
ただでさえ決断力が鈍った状態なので、休職するかどうか、などの重要な決断をすることは大きなストレスになります。周囲の方が上手に対処してあげてください。
患者様を支えようと頑張るうちに、周りの方も心身ともに疲れが溜まってきます。看病の負担から、ご家族の方もうつ病を発症してしまうことがあります。自分の時間を作って趣味を楽しんだり、相談できる友人に話を聞いてもらったりして、ストレスを溜めないよう心掛けましょう。
うつ状態がひどいときは、一人で通院したり薬を飲んだりすることも大変です。通院に付き添ったり、薬を飲み忘れたりしないよう気を付けてあげてください。
うつ病の患者様は、自分が周囲に迷惑をかけていることに罪悪感を抱き、ご自分が無力だと絶望しています。しかし、それは病気のせいであり、決して怠けているわけではありません。うつ病は病気だということをきちんと理解し、「いつかは良くなる」と希望を持って治療を支えていってほしいと思います。
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